韓国に来たくりのひと

韓国で会社員になりました

『ソウルの春』のもどかしさ。

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2023年11月に公開され2024年1月には動員数1200万人を突破した、大ヒット映画があります。

 

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『ソウルの春』

キム・ソンス監督

1979年の軍事クーデター「12・12軍事反乱」(粛軍クーデター)が題材

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このブログの筆者が愛してやまないマドンソクの『犯罪都市』の記録もひょいっと超えた作品です。

が、それだけの凄い作品だったと思うのです。

(『犯罪都市』はいわば痛快で派手なアクションの娯楽を突き詰めていて大好きです。)

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“派手な”と言う意味では『ソウルの春』は、ソウル市内へ無数の戦車がキュラキュラと民主主義の崩壊の足音を立てて向かうシーンなど、迫力があります。

でも、見所はそこではなくて。

 

会社でイサニム(上司)に「ソウルの春観に行きます〜」と言ったらこう言われました。

 

「面白い映画というよりか、답답한 映画だよ」

 

"답답한(タッタッパン)"がどういう意味かと言うと、

形容詞でもどかしい、息苦しいなどがあります。

その表現が、韓国でこの映画のヒットの理由をストレートに表現していると思いました。

 

イサニムは私より8歳上の81年生まれですが、当時はまだ生まれていない世代です。この映画はそんな当時を生きていない20代から30代前後くらいに特にヒットしていたそうです。

生きてはいないけれど、幼い頃に親や誰から聞いた、歴史で知る暗い過去。私のような外国人であっても、韓国の社会で生きていこうと思ったり、韓国に興味があれば少しであっても通る歴史の1ページだと思います。

 

「んな、馬鹿げたことをよくも、まあ」と私は歴史を眺めてきました。

映画の凄いところは、そんな私たちの心に、

アクセスしてきます。

 

脚本、映像の力、演技で言うとやはり全斗煥(チョン・ドゥファン)がモデルとなっているチョン・ドゥグァン役のファン・ジョンミンの名演ぶりが、とにかく私たちをもどかしくします。

あまりの不快さにポスターのチョン・ドゥグァンに傷をつけたりする観客もいたと言うニュースも話題になったこともちょっとわかります。

 

とにかく、もどかしい。

何度も、引き返したり、防げたかもしれないタイミングがあったか?

 

多分、自分は防げない。無理だったと思う。

そういうもどかしさを映画を見ながら、

何度も何度も味わうんです。

 

この映画で描かれる新軍部勢力との争いの9時間の敗北の果てにどんな未来がやってくるか、観客は知っています。

映画で描かれませんが、あってはならない虐殺や独裁の未来が来ることを知っているんです。

 

そして、ましてや軍の世界。

私は当然ながら多くは知りませんが、韓国の男性たちは兵役があるので軍隊を経験して社会に出てきます。

なおさら、個を消して従う世界の難しさを知っているのではないでしょうか。

 

歴史でしか知らなかったことが、

映画館にいたあの瞬間、

他人事から私事になった、そんな映画が『ソウルの春』でした。

 

韓国映画は社会性とエンターテイメント性を兼ね備えていると評価が高いですが、まさにその真骨頂だったのではないでしょうか。人の心を動かす作品だったと思います。

 

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ちなみに、抵抗した実在の人物がモデルのオ・ジンホ少佐を特別出演でチョン・ヘインが演じています。作品と役に本当に恵まれているなぁ思います。意思のある強い青年を好演していますよね。経験と年を重ねてどうなるか期待したくなる俳優さんです。